<特集>

行政系科目の学び方(2)
各論〜具体的学習法


 前回は総論として、科目の概要と特徴について述べた。(1)暗記的要素が強いこと、(2)体系性・論理性がほとんど要求されないこと、(3)センスが要求されるという3つの特徴を指摘し、政治や社会に関するニュースに興味を持つことと、世界史の素養の重要性について強調した。今回はそれを前提として、行政系科目の具体的学習法について述べる。
 まずは問題を解いてもらいたい。


★問題にチャレンジ(政治学)

 欧米における自由民主主義の成立に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
(国家II種・平成8年)

1 自由主義は都市民衆や農民の要求としての色彩が強く、一方、民主主義は旧体制に不満を持つブルジョワジーによるエリートの価値体系といえるものであり、その意味で両者は本来的に相いれない性質を持っていた。
2 フランスの歴史家A.トクヴィルは、フランス革命後のヨーロッパ社会の特徴として「諸条件の平等」を指摘し、しかもそれにもかかわらず、ヨーロッパ社会に自由が生き生  きと根づきつつあることを論じた。
3 自由主義の伝統の強いアメリカでは、1828年の選挙で大統領に選ばれたA.ジャクソンの時代に、参政権の拡大と政治過程の民主化が進展し、自由主義と民主主義の融合が進んでいった。
4 アメリカの自由主義が基本的にはブルジョワジーの思想であり、下層民衆の思想である民主主義や社会主義と対立することになったのに対し、ヨーロッパでは自由主義が絶対化され、他の思想と対立する契機を持たなかった。
5 自由主義者J.S.ミルはその著書において、選挙権を拡大していくことを通して最大多数の国民を国政に参与させる直接民主主義を実現することを主張したが、この考えはスイスのカントンなどにおいて実現された。


■具体的学習法(1)まずは世界史から始めよ

 政治学の問題ではあるが、高校レベルの世界史の知識があれば簡単に正解できる問題である。中西部出身のジャクソン大統領が農民や都市中下層民の支持を得て民主政治を押し進め、ジャクソニアン・デモクラシーと呼ばれたことは、世界史の教科書には必ず載っている。
 他の選択肢も、世界史の知識で間違いと判断できる。1は、そもそも自由主義はブルジョワが主張したものだし、2は、平等と自由がいち早く両立したのはヨーロッパではなくアメリカだったことを考えれば間違いと判断できる。4は、フランス革命後の革命政府において自由主義と民主主義の対立から血なまぐさい政治抗争が起きたことを思い出せば、おかしいことに気づく。5は通常は知識としては知らないにしても、ミルがイギリス人であることを知っていれば、代議制が古くから根付いている保守的なイギリスで直接民主主義が主張されたとは考えにくいと推論されよう。また、そもそも自由主義者であれば、直接民主主義は通常主張しないはずである。

 「自由主義」と「民主主義」は、政治学や憲法学で最重要の概念だが、政治学を学んだことがない人であっても、歴史を知っていればこの問題は解けたはずだ。逆に、政治学を少々かじっていても、歴史をまったく知らない人にとっては、正解するのが困難だっただろう。この問題からも明らかなとおり、自由主義と民主主義という概念を理解するためには、歴史的な事実とのつながりを押さえることが必須なのである。
 そこで、世界史の素養が不足していると感じている人は、まずは世界史から勉強を始めることを強くすすめたい。少なくとも試験まで1年あるのなら、遠回りのようで、これが後々の学習をスムーズにする最良の方法だ。まさに「急がば回れ」である。
 分野的には、とりわけルネサンス以降の西洋近現代史を重視しよう。勉強の素材は、高校の時に使った教科書があればそれで十分だし、教科書が面白くなければ一般向きの概説書を使っても良い。漫画が好きな人は、漫画から入るのも一つだろう。
 勉強する際の注意点は、とりあえず細かな人名等にはとらわれずに、全体の大きな流れを押さえることだ。また、地図帳等を用意して、出来事が起こった場所を地理的に把握しておくことも重要だ。これは地理の勉強にも生きてくる。そして、出来事を必ず年表で整理してほしい。
 正確な年号の暗記までは必要ないが、何世紀の前半か後半かぐらいまでは覚えておこう。そうすれば、たとえば政治学で「18○○年にフランスで××という論文が発表された」と出てきたときに、「このころフランスではこういう出来事があったな」とつながるはずだ。歴史的背景とつなぎ合わせることで、個々の学者や学説をバラバラにではなく有機的に関連づけて理解することも可能になるだろう。
 世界史の難しさは、複数の国で起こった出来事を相互に関連させて複線的に把握する必要があることである。慣れないうちはこれが厄介で世界史が嫌いになるが、年表を中心に勉強していけば、次第に頭の中でつながりができてくるだろう。くれぐれも、断片的な知識の記憶だけで終わらせないことだ。一見手っ取り早い方法は後で何の役にも立たないことを、肝に銘じておいてほしい。

■具体的学習法(2)学者・学説を重視せよ

 行政系科目では、全部で150人ほどの学者とその学説を理解・記憶しなければならない。たとえば、ウェーバーのようにいくつもの科目にまたがって顔を出す学者もいるし、リースマンとリップマンのように似た名前や、同じ名前だが別人の学者もいる。
 数が増えれば増えるほど混乱も増すので、面倒でも出てくるたびに自分なりの記憶法で暗記をしてしまおう(たとえば自分が知っている外国人アーティストやスポーツ選手と結びつけて覚える等)。
 一通り学習が終わったら、学者を一覧表にまとめて、学説内容と合わせて何度も繰り返し記憶することが必要だ(表1参照)。その際、学者や学説の相互的関連性にも注意してなるべく有機的に把握する。これができれば、学習は半分以上終わったも同然だろう。

(表1)

学者名
科目
キーワード(テキスト該当頁)
イーストン 政治学 脱行動科学革命(57)政治システム論(58)
ウィルソン 行政学 政治行政二分論(45)
ウェーバー 政治学 権力の正当化根拠(7)責任倫理(10) 政党の分類(24)
行政学 官僚制論(3)
社会学 理解社会主義・理念型(92)エートス(137)


■具体的学習法(3)基本書を中心に

 学習にあたっては、できれば講義を活用してほしい。講義のメリットは、科目全体の体系や、科目間のつながりを分かりやすく示して、理解のレベルを深められることにある。自分一人で本を読んだり問題集を解いていたのでは、どうしても知識が断片的、タコツボ的になりやすい。講義を聴くことで、その弊害を避けることができる。
 だが、講義を受ける余裕がない人もいるだろう。そのような人でも、学習方法を間違えなければ大丈夫だ。幸いなことに行政系科目は、法律系、経済系に比べ、体系性がそれほど重視されない。だから、タコツボ的な学習でも地道にやればある程度力を付けることができる。そこで独習者に向け、以下の基本書を紹介しておこう。

 <政治学>はじめて学ぶ政治学・加藤秀治郎(実務教育出版) 
 <行政学>行政学新版・西尾勝(有斐閣)
 <社会学>スーパー過去問ゼミ・社会学(実務教育出版)

 「はじめて学ぶ政治学」は、必要最小限の基礎知識を身につけるには大変便利な本だ。「行政学・新版」は、受験に不必要な部分も多く含んではいるが、学問的完成度が高く、かつ分かりやすい。「スーパー過去問ゼミ・社会学」は基本書と言うより問題集だが、単元ごとに重要ポイントのまとめがついており、基本書としても十分に使用できる。
 学習はあくまで基本書中心に基礎知識の理解、記憶を重視すべきである。過去問集は副次的に使用すれば足りる。過去問を解くと、聞いたことのない学者や学説が必ず登場してくる。しかしそれは正解のために不要な知識であることが多い。不安になって知識の幅を広げようとするのは、決して得策ではない。過去問は力試しのつもりで解き、知らない知識があっても解けたら良し、としよう。
 また、国家T種やU種では、現実の社会現象等につき受験生に考えさせて、分析力・思考力を問う問題が必ず含まれている。これは前述したように、センスが問われる問題だ。こうした問題に一朝一夕で対応することは難しい。繰り返しになるが、世界史の素養をベースに、新聞等を通じて現実社会に対する物の見方を養っておくしかないだろう。

 最近の世界情勢や国内の政治状況を見ても分かるとおり、21世紀は大きな変化と変革の時代になるだろう。こうした時代を迎えるにあたり、これまでに世界がどのような試練を経験し、それにどう立ち向かって変化を遂げたのかを学ぶことは大変意義のあることである。
 21世紀を担う行政官になるためには、たんに現在ある法制度を熟知してマニュアル通りの執行ができるだけでは不十分だ。日々直面する未知の問題に対して、自分なりに解決方法を発見し、さらには新たな価値を創造しなければならない。
 そんな時、行政系科目で学んだ学説が、貴重な示唆を与えてくれるかもしれない。実際、150人もの学者の説を理解、記憶している人など、社会にそう多くはいない。
 せっかく学習の機会に恵まれたのだから、インスタントな暗記科目と割り切らずに、時にはじっくりと自分の頭で考えることも心がけよう。頭を使わない勉強は、単なる事務作業と同じである。受験勉強を無味乾燥にするのも、有意義な財産にするのも、皆さん方の心がけ次第だということを忘れないでほしい。