<特集>
行政系科目の学び方(1)
総論〜科目の概要と特徴
公務員試験の専門科目は、経済系、法律系、行政系の3分野に分かれている。このうち行政系科目は、受験生にとって最も勉強しやすく、かつ短期で仕上げることが可能な科目である。従って、この科目を早めに得点源にすることで、合格をぐんと近いものにすることができるだろう。そこで、来年公務員試験を受験する人を対象に、2回に分けて、行政系科目の学び方について説明しよう。今回は総論として、科目の概要と特徴について述べる。
■行政経過目の概要
行政系科目には、(1)政治学、(2)行政学、(3)社会学、(4)国際関係、(5)社会政策の5科目が含まれる。このうち(1)(2)(3)が主要3大科目である。
法律学が現実の社会について制度的・規範的側面からアプローチするのに対して、政治学や行政学はより現実的・実体的側面からアプローチするという違いがある。
たとえば、同じ「行政国家」の問題を扱うにしても、憲法学ではそれを憲法的な価値尺度から評価するのに対して、行政学ではより現実に即して、その背景や実態、問題点に迫ろうとする。また、法律学が既存の法制度を前提とするために新たな価値の創造という点で限界があるのに対し、行政系科目はよりダイナミックで、価値創造的である。但しその分、学者間で享有する体系や概念に乏しく、学問的洗練度は法律学に劣るとも言える。
もちろん、制度と実体とは相互に影響を及ぼしつつ浸透し合うので、政治学・行政学と憲法・行政法とは学問的にも交流があり、近い関係にある。よって、この4科目をできるだけ相互に関連づけながら学習し、同時にレベルアップして行くことが望ましい。少なくとも4科目をひと回しした後、ふた回し目からはそういった観点を持つべきであろう。
次に、政治学、行政学、社会学について、研究対象とする領域の違いについて説明しよう。
社会学の対象領域が社会全般であるのに対して、政治学はその中の政治に関する領域を、行政学は政治のうちでとくに行政に関する領域を研究対象としている。3者はこのように対象領域が重なり合っているので、内容面でも当然、重複が出てくる。
そこで学習の順序としては、まずは中間に位置する政治学から入るのが望ましい。いきなり社会学では範囲が広すぎてとまどうし、逆に行政学からでは知識が細かすぎてタコツボ的な学習に陥る危険性があるからである。 政治学の次には、それを深める方向で行政学に入り、最後に社会学へと対象を広げるのが効率的である。政治学と憲法、行政学と行政法がそれぞれ密接なつながりを持っており、法律学では憲法を学んでから行政法に入ることからしても、この順番がベストだろう。
■本当に楽勝科目?
行政系科目に共通する特徴は、(1)暗記的要素が強いこと、(2)体系性・論理性がほとんど要求されないこと、(3)センスが要求されること、にある。表1を見て欲しい。
(表1)
0 |
知識量
|
||
小
|
大
|
||
思考力 | 小 |
行政系科目
|
知識分野(人文等)
|
大 |
知能分野(数的推理等)
|
民法等
|
法律系科目の中で最も難しい民法と対比してみよう。
まず、暗記科目とはいえ、要求される知識量はそれほど多くはない。行政系科目をひと束にしても、民法1科目の知識量に及ばないほどだ。そして、民法と違い、体系性・論理性があまり要求されないことから、当然、思考力もそれほど必要とされないことになる。
とすれば、これほど取り組みやすい科目はないはずである。実際、基礎知識の習得にかかる時間は他の科目に比べて極めて少なくて済むだろう。時間がない受験生の中には、受験界で出回っている直前総まとめ用の参考書だけで安易にすませてしまう人もいるぐらいだ。
では、受験生の間で差はつかないかというと、決してそうではない。逆に、知識の習得をひと通り終えた段階で問題を解かせてみて、これほど点差が開く科目はない。つまり、できる学生とできない学生が2極分化してしまう。この理由はどこにあるのだろうか。
■盲点(1)時事問題に関する素養
理由の第一は、前述した(3)のセンスの問題である。センスと言っても、芸術的センスのように何か生まれつき備わるような特別なものを言っているのではない。要は、普段から政治や社会に興味を持って新聞やニュースを見ていたか、政治に対してアレルギーがないか、という最低限の素養のことだ。
しかし、この最低限のことをこれまでないがしろにしてきた学生は意外に多いと思われる。現に成績優秀な学生の中からさえ、保守と革新の違いや、右翼と左翼の違い、ブルーカラーとホワイトカラーの違い等々について質問が出る。
たんに「自分は政治が嫌いだから」とか、「政治に関わるつもりはない」では済まされない。なぜなら行政官になる以上、日々の仕事の中で政治との関わりは避けて通れない問題だからだ。
思い当たる人は、今からでも遅くはない。日々、世界や日本で起きているニュースに関心を持ってほしい。そして新聞等で知らない時事用語が出てきたら、「現代用語の基礎知識」(自由国民社)等で調べて、少しずつ語彙を増やしていくことだ。「公務員試験の勉強をしたおかげで、政治欄がすらすらと読めるようになった」という人が多いが、これは必ず将来の財産になる。
■盲点(2)世界史の素養
もう一つ、あまり言われていないが、行政系科目の学習にあたって盲点となるのが、世界史の素養である。
政治学・行政学・社会学の3大科目では、さまざまな学説や、制度、概念を理解することが勉強の中心になる。そして、学説、制度、概念というものは、必ずと言っていいほど、時代背景や社会状況を反映している(これを存在被拘束性という)。つまり、「世界史=時代背景」の学習をすることなしに、学説や概念を深く理解することはできないということだ。
世界史が得意な受験生は、同じことを勉強していても吸収度が全然違う。それは、無意識的に世界史の知識と結合させて理解を深めているからである。これに対して、行政系科目で伸び悩む受験生の多くは、自覚していないが、世界史の素養に乏しい。
脇道にそれるが、世界史ができれば、憲法や思想・芸術・国際関係にも強くなる。ここまで書けば、世界史がたんに教養科目の1科目であるにとどまらず、多くの科目の攻略の鍵であることを分かってもらえるだろう。もっといえば、文系の学生にとって一番重要な教養が世界史だと思う。
この点については、次号(6月26日発行、第24号。「行政系科目の学び方 (2)各論〜具体的学習方法」)、問題を解いてもらいながら、より具体的に説明していきたい。