<特集>
裁判所で活躍する公務員
〜裁判所書記官・裁判所事務官〜
裁判所で働くのは、裁判官ばかりではない。裁判官を補佐する「裁判所書記官」、事務を取り仕切る「裁判所事務官」がいてこそ、裁判所の業務は成り立っている。
ここでは、裁判所事務官を経て現在、裁判所書記官研修所へ通うAさんのインタビューを通して、裁判所職員の役割・重要性を紹介する。
◆コート・マネージャーという仕事
Aさんは、自分の考えをしっかりもった魅力的な女性である。2000年の裁判所事務官U種試験に合格。昨年の4月から裁判所事務官として働き、その年の12月に裁判所書記官研修所入所試験に合格、裁判所事務官試験合格後1年で書記官研修所に入ったのだ。
来年2月には研修所を卒業し、晴れて裁判所書記官として、さらにステージの高い業務を行うことになる。Aさんの裁判所入所からの経過は異例の昇進のように思われるが、特に突出したものではなく一般より少し早い程度だという。Aさんによると、書記官の試験には、1〜3回で合格する人が多いようだ。
「書記官を早く育てたいという意向が、裁判所にあるのだと思います。事務官として入所して、以前は裁判部だけでなく事務局など様々な部署に配属になっていたのが、今は、T種採用以外は必ず裁判部に配属されます。私は民事の裁判部に配属になったのですが、上司や先輩方も私を『未来の書記官』と見てくれて、書記官の仕事をいろいろと教えてくれました」
Aさんが言うように裁判所では、裁判を迅速に進めるために、裁判官の権限を書記官に移管するなどして、業務を見直す動きが積極的に行われている。そのため採用についても、多くの公務員試験が効率化のため採用人数を減らしている中で、裁判所事務官は増加の傾向にある。
では、裁判所書記官や事務官は、どのような仕事を行っているのだろう。
「裁判所書記官は『コート・マネージャー』とも言われるんですね。マネージャーというと、一般企業の部長クラス。それくらい権限がある仕事なのだと思います。書記官は、訴訟手続きの経過や当事者の主張などを記録して証明する『公証官』という、事務官ではできない仕事をします。例えば、『何月何日に判決正本が送達されました』といったことを証明できるんです。書記官の名前にハンコをつけたら、それで証明できてしまう。先輩に言われたのですが、住民票は市長の名前で出しますが、裁判所では書類の証明は個人の名前で行います。先輩には、書記官は市長と同じくらいの権限があるんだと思え、って言われました。おおげさかもしれないですが、それくらいの責任感をもって仕事をしないといけないと思いました」
裁判所書記官の職責は非常に大きい。そのため、書記官として働く前に約1年間の研修が科されている。Aさんは現在、書記官研修所で講義形式による研修を受け、夏からは裁判所に移り調書の書き方などの実務研修を受けていく。
研修所は一部と二部に分かれ、一部は法学部出身の人、二部は法学部以外の出身の人で構成され、研修期間は前者が1年間、後者が2年間と異なる。
◆書記官と事務官の役割
裁判所で働くためには裁判所事務官試験を受けるが、ほとんどの場合は入所後の早い時期に書記官試験を受け、書記官研修所を経て裁判所書記官になっていくようだ。というのも、やはり事務官の立場ではできる仕事に限界があり、積極的に仕事に取り組みたい場合は書記官になることが必要だからだ。
「事務官だと、書記官の補助という域はでられないと思います。私は裁判部にいたので、事務局の経理や人事の仕事については分からないのですが、裁判部にいる限りは補助的業務に徹するしかないと思います。やはり、書記官にならないと自分の名前で仕事ができないので。ただ、事務官としてでも、当事者対応の際に手続きの説明や書類の書き方を丁寧に教えるなど、裁判所の顔としてのやりがいはあると思います」
また、裁判所のイメージについて、Aさんはこう話す。
「裁判所に来る人は、『恐いところ』というイメージで来ますよね。だけど、窓口のちょっとしたことで、イメージを変えることができればと思うんです。テレビでの顔は裁判官かもしれないですが、当事者が接するのは書記官や事務官ですから、私たちが裁判所の顔なんですよね。それに、裁判の過程をいかに円滑にするかは、書記官にかかっています。書記官がよければ、裁判がスムーズに進行しますから」
裁判所という緊張感のある職場で、Aさんはどのような気持ちで仕事をしているのだろうか。
「司法の一部だということはを日々感じています。いくら自分が新人で仕事をよくわかっていなくても、当事者には関係なく『裁判所の一部』として見られます。私が何かミスをすれば、それは『裁判所のミス』になってしまう。また、マスコミに何か聞かれてうっかりしゃべってしまえば『裁判所がこう言った』と書かれてしまうんですね。だから、自分の発言や行動には慎重になります」
◆女性にとっても恵まれた職場
「私たちの仕事は困っている人を助けることができる反面、公正中立を越えてはいけないため、逆に恨まれることも多いです。当事者の方にあまり教えることができなくて、不親切だと言われることもあります。でも、立場上、片方に肩入れするわけにはいかないので……」
と、Aさんは仕事の難しさも吐露する。とはいえ、親切な対応をして感謝されることも多い。
「おばあちゃんと裁判の書類をいっしょに整理したら『ありがとう』と言われたり、『お世話になりました』という手紙をいただいたり、うれしかったこともたくさんあります。裁判所に来るというのは、一般の人にしてみたら、ある意味『異常事態』ですよね。その異常事態を手助けして解決するというのは、やはり民間施設にはできないことだから、国民の信頼をいってに受けているということは感じます」
ところで、働き続けたいと考える女性が公務員という職業を選ぶケースは多いが、裁判所についてはどうなのだろうか。
「女性の採用が多いように聞きました。うわさだと、今年は過半数が女性という話もあります。同じ部に妊娠していた女性がいたのですが、彼女は仕事を1時間短縮させてもらって、ラッシュがない時間に通勤していました。産休も育休もとっていましたし。そういった面では、女性にとって非常に恵まれた職場だと思います。仕事についても男女差別なく実力で見てくれていて、きちんと仕事をしている人が評価されているのがわかります」
また、上司や先輩、同僚とも非常によい関係が結べており、Kさんはこの仕事を選んでよかったと言う。「定年まで、ずっと働き続けたいです」とも。
Kさんは、これから書記官になるにあたって「事務官のときは『知らないことは判断してはいけない』と言われていましたが、これからは自分で判断しなくてはいけないんですね」と、緊張した顔を見せた。
役所と違い普段あまり接することがないため、裁判所書記官や事務官の仕事内容は分かりづらいかもしれないが、この話を通して少しでも興味をもってもらえたらと思う。
時事対策のための直前予想問題
次のうち妥当なものはどれか。
1 狂牛病(BSE)は、牛の脳の組織がスポンジ状に変化し、全身がマヒして死にいたる病気で、1986年に初めて英国で報告され、英国を中心に欧州で感染が広がった。日本でも1996年には狂牛病が確認され、その原因と言われる肉骨粉の使用を禁止する行政指導を行っていた。
2 狂牛病にかかった牛を人間が食べると致死性痴呆症クロイフェルト・ヤコブ病にかかり、牛と同じように脳がスポンジ状になるといわれているが、世界でもまだ感染例は報告されていない。
3 2001年7月、公正取引委員会では、商品名に「牛乳」と表示できる商品を生乳100%で一定以上の乳脂肪分、無脂乳固形分が含まれている牛乳に限るとともに、商品の容器の表示欄には生乳の使用割合について「100%」「50%以上」「50%未満」のいずれかで表示することを行政指導しているが、まだ徹底されるに至っていない。
4 2001年4月から「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)の改正で、遺伝子組み替え作物を使用した加工食品に表示が義務化された。
5 研がずに炊ける無洗米が、便利さから消費量を伸ばしているが、その利用先は水道代がかからないなどコスト削減の観点から、持ち帰り弁当、回転寿司などの外食産業ばかりである。
<解説>
1 誤 日本でも1996年から農水省は牛に肉骨粉を食べさせない行政指導を行っていたが、実際には効果がないまま、結果、昨年(2001年)8月、千葉県で飼育されていた牛が起立不能などの症状を示し、9月には日本ではじめての狂牛病と認定 された。
2 誤 日本ではまだ発症の報告はないが、英国ではこれまでに100人以上が発症している。
3 誤 「行政指導」ではなく、義務付けた。2001年7月以降の新商品はこれに従わなければならない。すでに商品化されているものは、1年以内に名前を変更しなければならないとされた。
4 正 国内では遺伝子組み替え作物への不安が高く、遺伝子組み替えでないことが商品への付加価値をもつことから、「遺伝子組み替えでない」との任意表示もできるとされる。
5 誤 研がずに炊ける無洗米は、とぎ汁が出ず、川や海を汚さないのも特徴で、大阪市のように一部学校給食で導入する自治体があるほか、三重県では海洋汚染防止対策のひとつとして、県をあげて無洗米の普及に取り組んでいる。
(本問の作成については、「朝日キーワード2002」を参考にしています)